発達特性のあるお子さんの強みを育む:家庭でできる得意なことの見つけ方・伸ばし方
お子さんの発達について、専門機関から診断を受けたとき、まずはお子さんの「困りごと」や「苦手なこと」に目が行きがちかもしれません。日々の生活の中で、うまくいかないことや、他の子と比べて気になるところがあると、ついそちらに意識が向きやすくなるのは自然なことです。
しかし、発達には凸凹があると言われるように、苦手なことがある一方で、必ずその子ならではの「得意なこと」や「好きなこと」、「キラリと光る個性」があります。診断を受けたということは、お子さんの発達についてより深く理解するための第一歩です。この理解を、「困りごとへの対応」だけでなく、「得意なことや強みを伸ばすこと」にも活かしていくことが、お子さんにとってもご家族にとっても、豊かな未来につながる大切な視点となります。
この記事では、お子さんの得意なことや強みを家庭で見つけ、どのように育んでいけるのか、具体的なヒントや関わり方をご紹介します。お子さんの良いところに目を向け、自信と可能性を育むための一助となれば幸いです。
なぜ「得意なこと」を見つけて伸ばすことが大切なのでしょうか
お子さんの得意なことや強みに焦点を当て、それを伸ばしていくことは、いくつか大切な理由があります。
- 自己肯定感の向上: 自分が「これができる」「これが好き」という実感は、お子さんにとって大きな自信につながります。得意なことで成功体験を積むことは、自分は価値のある存在だと感じる自己肯定感を育みます。自己肯定感は、困難に立ち向かう力や、新しいことに挑戦する意欲の源となります。
- 「苦手」へのエネルギー: 得意なことや好きなことに打ち込むことで得られる達成感や楽しさは、苦手なことに取り組むためのエネルギーにもなります。得意なことを通して身につけたスキルや自信が、他の領域での学びや挑戦を支えることもあります。
- 特性の理解と活用: 特定の分野への強い興味や集中力、独特の視点などは、発達特性と関連している場合があります。これらを単なる「こだわり」や「偏り」と捉えるのではなく、「強み」として理解し、良い方向に活かす道を考えることができます。
- 親子関係の質の向上: お子さんの得意なことや好きなことを一緒に楽しんだり、応援したりする時間は、親子のポジティブなコミュニケーションを増やし、信頼関係を深めます。
お子さんの得意なことを見つけるヒント
お子さんの得意なことは、必ずしも特別なスキルである必要はありません。日々の生活の中に隠されている小さな「好き」や「得意」に目を向けることが大切です。
- 日々の観察: お子さんがどんなときに一番楽しそうか、集中しているか、時間が経つのを忘れてしまうほど夢中になっていることは何かを注意深く観察してみましょう。
- どんな遊びが好きですか(お絵かき、ブロック、外遊び、特定のキャラクターごっこなど)?
- どんなことに興味を示しますか(電車、虫、数字、文字、特定のYouTubeチャンネルなど)?
- どんなときに自然と体が動いたり、声が出たりしますか?
- 特定の手触りや音、視覚情報に強い反応を示しますか?(これは感覚的な特性に関連している場合もありますが、特定の感覚への鋭敏さが、芸術や音楽など特定の分野での才能につながることもあります)
- どんなときに周りから褒められることが多いですか?
- 「得意」の多様性を知る: 得意なことは、絵が上手、足が速いといった分かりやすいものだけではありません。
- 感覚的な得意: 特定の音を聞き分ける、色の違いによく気づく、物の形や配置をよく覚えているなど。
- 思考や学び方の得意: 一度聞いたことをよく覚えている、特定の手順や規則性をすぐに理解する、パズルや組み立てが得意など。
- 対人関係やコミュニケーションの得意: 動物の気持ちを察するのが得意、特定の人には心を開くのが早い、ジェスチャーで伝えるのが得意など(これは発達特性によって多様です)。
- 体の使い方の得意: 特定の動きがスムーズ、バランス感覚が良い、手先が器用など。
- 無理強いせず、見守る: 「何か得意なことを見つけよう」と意気込むのではなく、お子さんのペースで見守ることが大切です。親の期待や価値観で判断せず、「お子さん自身が楽しんでいること」に焦点を当てましょう。
- 記録してみる: 「〇〇をしているとき、すごく楽しそうだった」「△△について、詳しく知っていて驚いた」など、お子さんのポジティブな言動をメモしておくと、後で見返したときに新たな発見があるかもしれません。写真や動画で記録するのも良い方法です。
家庭でできる「得意なこと」の伸ばし方
お子さんの得意なことのヒントが見つかったら、次はそれをどのように育んでいくかを考えます。
- 興味や関心を受け止める:
- お子さんが話す「好き」なことや、夢中になっていることについて、否定せずに関心を示し、耳を傾けましょう。
- 「へえ、そうなんだね!」「〇〇のこと、詳しいね!」など、共感的な声かけをします。
- 環境を整える:
- お子さんの興味に関連するものを家庭に取り入れてみましょう。例えば、電車が好きなら図鑑や関連のおもちゃ、絵を描くのが好きなら様々な種類の紙や画材を用意するなどです。
- 安全に、かつ集中して取り組めるスペースを確保できると理想的です。
- 一緒に楽しむ、機会を作る:
- お子さんの得意なことや好きなことを、ぜひ一緒に楽しんでみてください。同じ目線で遊んだり、一緒に調べたりすることで、お子さんの楽しさや興味はさらに深まります。
- 得意なことを発揮できる機会を作りましょう。例えば、お手伝いの中で、特定の作業が得意ならそれを担当してもらう、家族に得意なことを見せる時間を作るなどです。
- プロセスと努力を褒める:
- 結果だけでなく、お子さんが夢中になって取り組んでいるプロセスや努力を具体的に褒めましょう。「一生懸命〇〇に取り組んでいたね」「△△を△△な風に工夫していてすごいね」といった声かけは、お子さんの「やってみよう」という気持ちを育みます。
- 「苦手」と「得意」を組み合わせる工夫:
- もしお子さんの得意なことが、特定の苦手なことのサポートに繋がるなら、それを取り入れてみましょう。例えば、視覚優位で絵を描くのが得意なら、やるべきことのリストを絵や図で示して自分でチェックできるようにするなどです。興味のある分野の学習なら集中できる、といった特性を活かすことも有効です。
大切なこと:焦らず、お子さんのペースで
「得意なこと」を見つけ、伸ばしていくプロセスは、結果を急ぐものではありません。お子さんの成長とともに興味や得意なことは変化していくこともあります。大切なのは、お子さん自身が「楽しい」「もっと知りたい」「やってみたい」と感じる気持ちを尊重し、その気持ちに寄り添うことです。
また、得意なことを伸ばすことと並行して、苦手なことへのサポートも継続していくことが重要です。療育や専門機関での支援はお子さんの全体的な発達をサポートするためにあり、家庭での関わりと療育での学びは相互に補い合うものです。
もし、お子さんの得意なことについて、どのようにサポートしていけば良いか迷うことがあれば、専門家(医師、心理士、作業療法士、言語聴覚士など)や、療育機関の担当者に相談してみるのも良いでしょう。彼らは、お子さんの特性を理解した上で、得意なことを活かしつつ、必要な支援を行うための具体的なアドバイスをくれるはずです。
まとめ
お子さんが発達診断を受けたことは、お子さんの個性や特性を深く理解するための貴重な機会です。つまずきやすいことや苦手なことに目を向けることも大切ですが、それと同じくらい、お子さんの得意なことや好きなこと、強みに焦点を当てることで、お子さんの自己肯定感を育み、豊かな可能性を引き出すことができます。
日々の生活の中で、お子さんが自然と笑顔になる瞬間や、夢中になっていることを見つけてみてください。それは、お子さんだけが持っている素晴らしい「得意のタネ」かもしれません。そのタネに、温かい眼差しと適切なサポートという水をあげることで、きっと大きく育っていくはずです。
焦る必要はありません。お子さんのペースを大切に、家庭での日々の関わりを通して、お子さんの強みを一緒に見つけ、育んでいくプロセスを楽しんでいただけたらと思います。