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発達特性のあるお子さんの歯磨き、着替え、トイレトレーニング:家庭でできるスモールステップでの教え方

Tags: 生活習慣, 発達特性, 家庭での関わり方, スモールステップ

お子さんが発達診断を受けられ、これから様々な情報収集や支援機関の検討を始められる段階にあることと存じます。情報が溢れる中で、まず何から取り組むべきか、ご家庭でどのように関われば良いのか、戸惑いやご不安を感じていらっしゃるかもしれません。

この記事では、お子さんが日々の生活の中で必要となる「基本的な生活習慣」の習得に焦点を当て、特に多くの親御さんが関わる機会の多い歯磨き、着替え、トイレトレーニングについて、ご家庭で実践できる具体的な教え方のヒントをお伝えします。お子さんの発達特性に合わせた関わり方を知ることで、日々の生活が少しでもスムーズになり、お子さん自身が「できた」という成功体験を積み重ねられるよう、一緒に考えていきましょう。

なぜ生活習慣の習得に難しさを感じることがあるのか

発達特性のあるお子さんの場合、定型発達のお子さんと比べて、生活習慣の習得に時間がかかったり、特定の行動に難しさを感じたりすることがあります。これにはいくつかの理由が考えられます。

これらの特性を理解することで、「なぜうちの子はこれができないんだろう」という疑問や、お子さんへの否定的な気持ちが少し和らぎ、「どうしたら伝わるかな」「どうしたらできるようになるかな」という肯定的な視点に繋がりやすくなります。

生活習慣を教える上での大切な考え方

お子さんに新しい生活習慣を教える際には、いくつかの共通して大切なポイントがあります。

具体的なスキル別の教え方(スモールステップ例)

歯磨き

歯磨きは、口の中という敏感な場所に関わるため、感覚の過敏さによって嫌がることが多くあります。無理強いせず、慣れることから始めます。

  1. 歯ブラシに慣れる: まずは歯ブラシや歯磨き粉を見る、触ることから始めます。お子さんの好きなキャラクターの歯ブラシを選んだり、匂いの少ない/好きな香りの歯磨き粉を探したりすることも有効です。
  2. 口に触れる練習: 歯ブラシではなく、指やガーゼで優しく口の周りや唇、歯茎に触れる練習をします。「これは気持ちいいね」など、ポジティブな言葉で声かけます。
  3. 歯ブラシを口に入れる: 歯ブラシを口に入れることに抵抗がなくなってきたら、歯ブラシのヘッドを軽く口に入れてみます。最初は一瞬で大丈夫です。
  4. 特定の歯を磨く: 奥歯の噛み合わせ面だけ、前歯の表側だけ、など、磨く場所を限定します。最初は1本でも数本でも構いません。
  5. 磨く範囲を広げる: 徐々に磨く場所と時間を増やしていきます。
  6. 自分でやってみる: 一緒に持ちながら、お子さんが自分で歯ブラシを動かす練習を促します。
  7. 仕上げ磨き: お子さんが磨いた後に、保護者の方が仕上げ磨きをします。これは、虫歯予防のためだけでなく、仕上げ磨きをされることに慣れるためにも重要です。
  8. うがい・片付け: 歯磨きが終わったら、うがいをする、歯ブラシを片付ける、といった一連の流れを教えます。

視覚支援の例: 歯磨きの絵カード(歯ブラシを持つ→口に入れる→シャカシャカ磨く→うがい→歯ブラシを置く)や、歯の模型を使って「この歯を磨くよ」と具体的に示す。

着替え

着替えは、多くの手順と体の動き、そして服の前後ろや裏表を判断する力が必要です。

  1. 服を用意する: 今日着る服を自分で選ぶ、または親と一緒に選ぶことから始めます。
  2. 服を脱ぐ(上): 頭から脱ぐ服の場合、まず裾をつかむ→頭を出す→片腕を抜く→もう片腕を抜く、のように分解します。最初は頭を抜く部分だけ手伝うなど、部分的にサポートします。
  3. 服を脱ぐ(下): ズボンの場合、ウエストをつかむ→片足ずつ抜く、のように分解します。
  4. 脱いだ服を処理する: 脱いだ服を裏返しのまま洗濯カゴに入れる、または裏返してたたむ練習をします。
  5. 服を着る(下): ズボンやスカートに片足を通す→もう片足を通す→ウエストを上げる、のように分解します。
  6. 服を着る(上): シャツの場合、首のタグを見て前後ろを確認する→首からかぶる→片腕を通す→もう片腕を通す→裾を引っ張って整える、のように分解します。袖に手を通す部分だけ手伝うなど、部分的なサポートから始めます。
  7. ボタンやチャック: ボタンを留める練習、チャックを上げる練習は、別途集中的に行う必要がある場合があります。ボタンを穴に通す練習、チャックの金具を持つ練習など、さらに細かく分解します。
  8. 服を整える: 袖や裾を引っ張ったり、襟を直したりして服を整える練習をします。

視覚支援の例: 服を着る手順の絵カード(下着→シャツ→ズボンなど)、前後ろが分かりやすいように服に印(ワッペンやタグ)をつける、脱いだ服を洗濯カゴに入れる場所を示す絵。

トイレトレーニング(排泄)

トイレトレーニングは、体の感覚、膀胱のコントロール、場所や手順の理解など、様々な要素が関わります。焦らず、お子さんのサインをよく観察することが大切です。

  1. トイレに慣れる: トイレという場所や、便器、補助便座、踏み台などに慣れることから始めます。遊び感覚でトイレに入ってみる、絵本を読む、お気に入りのキャラクターの便座カバーを使うなども良いでしょう。
  2. トイレに座る: 衣服を着たまま、または脱いで、便器に座る練習をします。座ることに慣れたら、短時間座ることから始めます。
  3. サインに気づく: おしっこやうんちが出そう、という体のサイン(もじもじする、特定の場所に行くなど)に保護者が気づき、お子さんに伝える練習をします。「あ、もじもじしてるね、おしっこかな?」
  4. トイレで排泄する: サインがあったとき、または定期的に(例:食後、寝る前など)トイレに誘います。トイレで排泄できたら大いに褒めます。最初は少量でも成功と見なします。
  5. 後始末: トイレットペーパーで拭く練習、水を流す練習をします。
  6. 手を洗う: トイレの後には手を洗う、という流れを習慣にします。
  7. 自分でトイレに行く: 自分で排泄のサインに気づき、トイレに行くことを促します。

視覚支援の例: トイレの手順絵カード(トイレに行く→ズボンを下ろす→座る→おしっこ/うんちをする→拭く→流す→ズボンを上げる→手を洗う)、トイレに行ったらチェックできる表。

家庭での関わり方全般のヒント

おわりに

お子さんの発達診断を受けられたばかりで、様々な情報に触れ、不安なお気持ちになられるのは自然なことです。しかし、診断は終わりではなく、お子さんの特性をより深く理解し、成長をサポートしていくための始まりです。

今回ご紹介した生活習慣の習得は、お子さんが自立して生活していく上で非常に大切なステップですが、焦る必要はありません。お子さんのペースを尊重し、小さな「できた」を大切にしながら、スモールステップで、楽しみながら取り組んでみてください。

ご家庭での関わり方に迷われたり、具体的な方法を知りたいと思われたりした際には、お子さんが利用されている療育機関や相談窓口に遠慮なくご相談ください。専門家もきっと、お子さんの成長を温かく見守り、サポートしてくれるはずです。

この記事が、皆さんのこれからの歩みの一助となれば幸いです。