発達特性のあるお子さんの朝の準備、食事、着替えの「困った」をスムーズに:家庭でできる具体的な工夫
お子さまの発達について診断を受け、これからどのように関わっていけば良いのか、様々な情報に触れる中で、日常の具体的な場面でどう対応すれば良いのか悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。特に、毎日の生活の中で繰り返し起こる「困ったな」と感じる場面、例えば朝の支度がなかなか進まない、食事に時間がかかる、着替えを嫌がる、といったことで、お子さま自身も保護者の方も疲れを感じてしまうことは少なくありません。
これらの日常的なつまずきの中には、お子さまの発達の特性が関係していることがあります。この特性を理解し、お子さまに合った関わり方や環境の工夫を取り入れることで、「困った」と感じる場面を少しずつスムーズにしていくことが可能です。
この記事では、発達特性のあるお子さまとの日常生活でよくある「朝の準備」「食事」「着替え」といった場面に焦点を当て、それぞれの場面で考えられる困りごとの背景や、家庭で実践できる具体的な工夫や声かけのヒントをご紹介します。記事を通して、日々の関わり方のヒントを見つけ、お子さまとの毎日が少しでも楽に、そして穏やかになるための一助となれば幸いです。
なぜ日常生活の特定の場面で困りごとが起きやすいのか
お子さまの発達特性は、得意なことや苦手なことに「凸凹」がある、と表現されることがあります。この特性が、特定の場面で困りごととして現れやすいことがあります。例えば、以下のような特性が関係しているかもしれません。
- 感覚の偏り: 特定の音、匂い、肌触り(衣服のタグや特定の素材)、味、光などに過敏であったり、逆に鈍麻であったりすることがあります(感覚過敏・感覚鈍麻)。これが、食事の偏りや特定の服を嫌がる理由となることがあります。
- 切り替えの苦手さ: 今している活動から次の活動へスムーズに気持ちや行動を切り替えることが難しいことがあります。遊びに集中している状態から朝の準備に取りかかる、といった場面でつまずきやすくなります。
- 見通しを立てるのが苦手: これから何をするのか、どのような順序で進むのかを理解するのが難しいことがあります。次に起こることが分からない、終わりの見通しが立たない、といったことが不安や混乱につながることがあります。
- 言葉での指示の理解: 口頭での長い指示や抽象的な指示を理解するのが難しいことがあります。具体的な行動を伝える際に、言葉だけでは伝わりにくさを感じることがあります。
- 不器用さや体の使い方の特性: 微細運動(手先を使った細かい動き)や粗大運動(体を使った大きな動き)に苦手さがある場合があります。ボタンを留める、箸を使う、といった動作が難しく感じられることがあります。
これらの特性は、お子さまの「わがまま」や「反抗」ではなく、脳機能の特性によるものであることを理解することが、適切な対応の第一歩となります。
日常生活でよくある困りごと:場面別具体的な工夫
それでは、それぞれの場面でどのような困りごとが考えられ、それに対して家庭でどのような工夫ができるのかを見ていきましょう。
朝の準備・登園/登校支度
「早くしなさい」「もう時間だよ」といった声かけが響かない、着替えが進まない、持ち物の準備ができない、といった困りごとが多く聞かれます。
考えられる困りごとの背景: * 切り替えの苦手さ * 見通しを立てるのが苦手 * 指示の理解の難しさ * 感覚過敏(特定の服を嫌がる)
家庭でできる具体的な工夫:
- 視覚的なスケジュールを活用する:
- 朝起きてから家を出るまでのやることリスト(「顔を洗う」「着替える」「朝ごはん」「歯磨き」「家を出る」など)を絵カードや写真、文字で作成し、壁に貼るなどして見える場所に置きます。
- 終わった項目にはチェックをつけたり、カードを裏返したりすることで、達成感を得やすく、次に何をするか、あとどれくらいで終わりか、という見通しを持ちやすくなります。
- 声かけを具体的に、短く:
- 「早く支度しなさい」ではなく、「まずはお着替えしようね」「カバンの中に〇〇を入れるよ」など、具体的な行動を一つずつ伝えます。
- 「〇〇したら△△だよ」のように、次に起こることを伝えることで、見通しを立てやすくします。
- 選択肢を限定する:
- 着る服を2〜3着から選ばせる、朝食のメニューをいくつか提示するなど、選択肢を絞ることで、迷いや混乱を減らします。
- 環境を整える:
- 前の日の晩に翌日の服を用意しておく、持ち物を玄関などにまとめて置いておくなど、朝慌てないで済むように準備しておきます。
- 気が散りやすいものを片付けるなど、集中しやすい環境を作ります。
- スモールステップで褒める:
- 「着替えたね」「カバンにハンカチ入れたね」など、小さな行動ができたら具体的に褒めることで、達成感や次の行動への意欲につなげます。
食事の時間
偏食が多い、特定の食感や匂いを嫌がる、席についていられない、食事に時間がかかりすぎる、といった困りごとがあります。
考えられる困りごとの背景: * 感覚の偏り(味、匂い、食感、温度への過敏さ) * 切り替えの苦手さ(遊びから食事への切り替え) * 集中力の持続の難しさ(席についていられない) * 不器用さ(箸やスプーンの使い方)
家庭でできる具体的な工夫:
- 感覚の偏りへの配慮:
- 特定の食感や匂いを嫌がる場合は、調理法を変えたり、一口だけお皿に乗せてみるなど、無理強いせず少しずつ慣れる機会を作ります。
- 食事中の音(くちゃくちゃする音など)に敏感な場合は、BGMを流すなど工夫をしてみます。
- 座って食べるための工夫:
- 座る場所を固定する、足がぶらぶらしないように足置きを用意するなど、安心して座れる環境を作ります。
- 食事時間をタイマーで区切り、終わりを分かりやすくするのも一つの方法です(ただし、食事を楽しむこととのバランスが大切です)。
- 偏食への対応:
- 全く食べられないものを無理強いせず、少しでも食べられるものから始めます。
- 新しい食材は、好きなものと一緒に少量だけ出してみる、楽しい雰囲気で食卓に出すなど、抵抗感を減らす工夫をします。
- 家庭菜園で一緒に育てた野菜を食べる、食材に触れてみる、といった体験も有効なことがあります。
- 食べ方の練習:
- スプーンやフォーク、箸の使い方に苦手さがある場合は、お子さまに合った補助具を使ったり、遊びの中で手先を使う練習を取り入れたりします。
- 食事中の声かけ・ルール:
- 「立たないで座って食べようね」「一口食べたら座る場所に戻ろうね」など、具体的な言葉で促します。
- 食事中はテレビを消すなど、集中を妨げるものを減らします。
着替えの時間
特定の素材や服のタグを嫌がる、ボタンやファスナーの操作が苦手、着替える手順が分からない、といった困りごとがあります。
考えられる困りごとの背景: * 感覚過敏(肌触り、締め付け) * 見通しを立てるのが苦手(着替えの手順) * 不器用さ(ボタン、ファスナー、体の動かし方)
家庭でできる具体的な工夫:
- 感覚の偏りへの配慮:
- 肌触りの良い素材の服を選び、タグは切り取る、締め付けの少ないデザインを選ぶなど、お子さまが快適に過ごせる服を探します。
- 事前に「今日の服はこれだよ」と見せておくなど、心の準備を促します。
- 手順を分かりやすく伝える:
- 着替えの順番(「まずズボンを脱ぐ」「次にシャツを着る」など)を絵カードや写真、文字で示します。
- 脱いだ服を入れる場所を決めておくなど、一連の流れを分かりやすくします。
- スモールステップと手伝い:
- ボタンを留めるのが難しければ、初めは一つだけ自分で留める練習をする、Tシャツを頭からかぶる練習から始めるなど、小さなステップに分けて取り組みます。
- 難しい部分は保護者が手伝い、「ここはママがお手伝いするね、ここは自分でやってみようか」と声をかけます。
- 簡単な服から練習する:
- ボタンやファスナーのない、伸び縮みする素材の服から練習を始め、慣れてきたら少しずつ難しいものに挑戦します。
- できたことを具体的に褒める:
- 「ズボン自分で履けたね、すごいね」「ボタンを一つ留められたね、上手にできたね」など、具体的にできた行動を褒めることで、やる気につなげます。
日々の関わりで共通して大切なこと
特定の場面での具体的な工夫に加えて、日々の関わりの中で共通して心がけたい大切なことがあります。
- お子さまの特性を深く理解する: なぜその行動をとるのか、何に困っているのか、お子さまの視点に立って理解しようと努めます。日々の観察を通して、お子さまの得意なことや苦手なこと、好きなこと、嫌いなことを把握することが大切です。
- 完璧を目指さず、スモールステップで: 一度に全てを変えようとせず、お子さまの状態に合わせて、できることから少しずつ取り組んでみてください。昨日できなかったことが今日できなくても、焦る必要はありません。ゆっくり、確実なステップを大切にします。
- ポジティブな声かけと承認: できなかったことや失敗に注目するのではなく、できたこと、頑張った過程に注目し、具体的に褒めたり認めたりする声かけを増やします。お子さまは「自分はこれでいいんだ」「頑張ればできることがある」という感覚を育んでいきます。
- 親自身の心と体を大切にする: 毎日の関わりは、保護者の方にとってもエネルギーを使うものです。頑張りすぎず、時には休息をとる、誰かに話を聞いてもらう、専門機関に相談するなど、ご自身の心身をケアすることを忘れないでください。保護者の方が心穏やかでいることが、お子さまとの関わりにおいて何よりも大切です。
- 専門家や支援機関に相談する: 家庭での工夫だけでは難しいと感じる場合や、より専門的なアドバイスが必要な場合は、迷わず専門機関に相談してください。児童発達支援センター、保健センター、かかりつけ医、相談支援事業所など、様々な窓口があります。
まとめ:日々の小さな工夫が未来につながる
発達特性のあるお子さまとの日常生活には、様々な「困った」が起こりうるかもしれません。しかし、それはお子さまが成長していく上での自然な過程であり、特性に合った関わり方や環境の工夫を取り入れることで、乗り越えていくことができるものです。
朝の準備、食事、着替えといった日常の場面でご紹介した具体的な工夫は、ほんの一例です。お子さま一人ひとりに合った方法を見つけるためには、試行錯誤が必要になることもあります。
大切なのは、お子さまのペースを尊重し、焦らず、できたことを一緒に喜び、前向きに取り組んでいく姿勢です。日々の小さな工夫の積み重ねが、お子さまの自信を育み、将来の自立に向けての大切な一歩となります。
一人で抱え込まず、利用できる支援やサービスを活用しながら、お子さまとの毎日を大切に過ごしてください。応援しています。