発達の特性からくる子どもの「困りごと」を見つけるヒント:家庭での観察と整理のポイント
お子さんの発達について診断を受けられたこと、大変な経験だったこととお察しいたします。診断後、情報が洪水のように押し寄せ、これから何から始めたら良いのか、お子さんのために何ができるのか分からず、戸惑いや不安を感じていらっしゃる方も少なくないかもしれません。
診断は、お子さんの発達に「特性」があるということを理解するための一つの手がかりです。この特性によって、お子さんが日常生活の中で様々な「困りごと」に直面している可能性があります。しかし、その困りごとが具体的にどのようなものなのか、ご家族でもすぐに全てを把握するのは難しいこともあります。
この記事では、お子さんの発達特性からくる困りごとを家庭で見つけるための観察のヒントと、それを整理する方法についてお伝えします。このプロセスを通じて、お子さんへの理解を深め、今後の支援や関わり方を検討するための大切な一歩を踏み出すお手伝いができれば幸いです。
なぜ「困りごと」を具体的に見つけることが大切なのでしょうか
お子さんの発達特性は、良い面(強み)としても現れますが、日常生活の中でつまずきや困難(困りごと)として現れることもあります。例えば、
- 特定の音や光に敏感で落ち着けない
- 初めての場所や活動に強い不安を感じる
- 友達との関わり方が分からない
- 言われたことの理解に時間がかかる
- 手先を使う作業が苦手
- 特定のことに強いこだわりがある
など、その現れ方はお子さんによって様々です。
これらの具体的な困りごとを把握することは、今後の療育や支援を考える上で非常に重要です。なぜなら、支援の目的は診断名そのものを治すことではなく、「お子さんが日常生活や社会生活を送る上で抱える困難を軽減し、より豊かな生活を送れるようにサポートすること」にあるからです。
困りごとが明確になれば、どのようなサポートが必要なのか、どのような療育や家庭での関わり方が有効なのかを具体的に検討できるようになります。また、支援機関の専門家や学校の先生に相談する際にも、具体的な状況を伝えることで、よりお子さんに合った支援に繋がりやすくなります。
家庭での観察で見つけるヒント
お子さんの困りごとは、特別な場面だけでなく、普段の家庭生活の中に隠れていることがよくあります。日々の生活の中で、少し意識してお子さんの様子を観察してみましょう。
観察する際のポイントは、「〜ができない」「〜がおかしい」といった評価の視点ではなく、「お子さんがどのような状況で、何に困っているのだろうか」という理解しようとする視点を持つことです。
具体的な観察のヒントをいくつかご紹介します。
1. 特定の状況や時間帯に注目する
お子さんがいつも同じような行動パターンを示したり、特定の状況で落ち着きがなくなったり、癇癪を起こしたりすることはありませんか。
- 時間帯: 朝起きてから学校/園に行くまで、食事中、遊びの時間、寝る前など、特定の時間帯に困りごとが出やすいかもしれません。例えば、朝の支度に時間がかかる、寝る前に落ち着けない、など。
- 場所: 家の中の特定の部屋、スーパーなどの騒がしい場所、公園、学校/園など、場所によって困りごとの現れ方が違うことがあります。例えば、人混みで立ち止まってしまう、特定の場所に行きたがらない、など。
- 活動: 食事、着替え、入浴、歯磨き、宿題、友達との遊びなど、特定の活動中に困りごとが起きやすいかもしれません。例えば、偏食が多い、服のタグを嫌がる、特定の遊び方しかできない、など。
2. 行動の「なぜ?」を考えてみる
お子さんの行動の背景にある理由を考えてみましょう。一見、反抗やわがままに見える行動も、発達特性からくる困りごとが原因かもしれません。
- 「どうしてこんなことをするのだろう?」
- 「この行動の前に何かきっかけがあったかな?」
- 「この行動は、お子さんにとってどんな意味があるのだろう?」
- 「何かを伝えようとしているのかな、それとも何かから逃れようとしているのかな?」
例えば、急に走り出す行動が、場所の切り替えが難しいことの現れかもしれない、特定の遊びに固執するのが、先の見通しが立たないことへの不安からきているのかもしれない、といったように考えてみます。
3. 五感を意識して観察する
お子さんが五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)からの情報にどのように反応しているか observing the child's response to sensory information を見てみましょう。感覚の過敏さや鈍感さが困りごとに繋がっていることがあります。
- 視覚: 特定の光を眩しがる、細かいものが気になる、文字や絵が歪んで見えるように感じる(本人が自覚しているとは限りません)、など。
- 聴覚: 特定の音(掃除機、人の声、音楽など)を嫌がる、耳を塞ぐ、騒がしい場所が苦手、小さな物音に気づきすぎる、呼びかけに気づかない、など。
- 触覚: 特定の素材の服を嫌がる、抱っこを嫌がる、特定の感触(砂、絵の具など)を過度に嫌がる、逆に特定の感触を求め続ける、など。
- 嗅覚・味覚: 特定の匂いを強く嫌がる、偏食が非常に強い、初めての食べ物を口にできない、など。
4. 他者との関わり方を観察する
友達や家族とのコミュニケーション、遊びの中で困りごとが見られることがあります。
- 遊びにどう参加しているか(一人遊びが多い、特定の友達としか遊ばない、集団の遊びに入れない、など)。
- 自分の気持ちや要求をどのように伝えているか。
- 相手の気持ちや状況をどの程度理解しているか。
- 会話のやり取り(目を合わせる、順番に話す、話題を変える、など)。
- ボディランゲージや表情の読み取り。
観察した内容を整理するポイント
漫然と観察するだけでなく、観察した内容を記録・整理することで、困りごとのパターンが見えてきたり、専門家への相談時に役立つ情報になったりします。
1. 具体的に記録する
「今日は大変だった」「落ち着きがなかった」といった漠然とした記録ではなく、具体的に「いつ(日付、時間)」「どこで」「誰といるときに」「何をしていて」「どのような状況で」「お子さんはどうなったか(具体的な行動、言動)」「その前後に何があったか」「そのあとどうなったか」などを記録しましょう。
例: * 2月15日 8:00 AM / リビング / 朝食中 / パンにジャムを塗ろうとしたが、手にジャムがついた / 突然泣き出し、手を洗いたがった / 洗っても泣き止まず、着替えが進まなかった。
2. ツールを活用する
記録するためのツールは、ノート、日記帳、スマートフォンのメモアプリ、専用の育児記録アプリなど、使いやすいもので構いません。動画や音声で記録することも、後で見返したときに状況を思い出しやすいため有効です。
3. 困りごとリストを作成してみる
ある程度観察が進んだら、見つかった困りごとをリストアップしてみましょう。
- 困りごとの項目: 例)着替えに時間がかかる、特定の場所に行きたがらない、友達にどう声をかけたらいいか分からない など
- 具体的な状況: どのような時にその困りごとが起きるのか(上記の具体的な記録から共通点を見つける)
- 考えられる原因: なぜその困りごとが起きるのか、観察から推測できること(例)特定の素材の服が苦手、感覚過敏、先の見通しが立たない不安 など
- 家庭で試したこと: その困りごとに対して、これまでにどのような声かけや工夫をしてみたか
このリストは完璧である必要はありません。あくまで現時点での仮説や整理です。作成したリストは、専門家との面談や相談の際に持参すると、話がスムーズに進みやすくなります。
完璧を目指さず、お子さんの良いところにも目を向ける
お子さんの困りごとを見つけようと意識しすぎると、つい粗探しをしているような気持ちになったり、保護者の方が疲れてしまったりすることもあるかもしれません。
観察は、お子さんの全体像を理解するためのものです。困りごとにだけ注目するのではなく、お子さんが「どんな時に楽しそうか」「どんなことが得意か」「どんなことができるようになったか」といった、お子さんの良いところや成長にも同じように目を向け、記録してみてください。
困りごとの観察と同時に、お子さんの強みや興味・関心を把握することも、今後の支援を考える上で非常に大切な視点となります。
終わりに
お子さんの発達特性からくる困りごとを理解することは、一朝一夕にできることではありません。焦らず、お子さんのペースに合わせて、少しずつ観察を進めてみてください。
観察を通じて得られた情報は、療育機関や専門家との話し合いの貴重な材料となります。一人で抱え込まず、必要であれば専門機関や相談窓口に相談しながら進めていくことをお勧めします。
お子さんへの深い理解は、より適切なサポートや温かい関わり方に繋がります。そしてそれは、お子さんが自分らしく成長していくための大切な基盤となるはずです。このプロセスが、少しでも保護者の皆様の安心に繋がり、次の一歩を踏み出す力となることを願っております。