発達検査の結果報告書の見方：診断を支援につなげるためのポイント
お子さまが発達診断を受けられた後、医師や心理士から発達検査の結果報告書を渡された方もいらっしゃるでしょう。そこには専門的な言葉や数値が並んでおり、どのように読めば良いのか分からず、戸惑われているかもしれません。
この報告書は、お子さまの今の発達の状態を理解し、今後の療育や家庭での関わり方を考える上で、とても大切な情報源となります。全てを完璧に理解する必要はありませんが、基本的な見方や、どこに注目すれば良いかを知っておくことで、診断後の次の一歩を踏み出しやすくなります。
この記事では、発達検査の結果報告書に一般的に記載されている内容や、特に注目していただきたいポイント、そしてその情報をどのように日々の支援に活かしていけるのかについて、分かりやすくご説明します。
発達検査とはどのようなものですか
発達検査は、お子さまの認知能力や言語能力、社会性、運動能力などが、同じ年齢のお子さまと比べてどのように発達しているかを確認するための検査です。診断の根拠となる情報のひとつであり、お子さま一人ひとりの得意なことや苦手なこと、発達の特性を把握する目的で行われます。
代表的な検査としては、WISC（ウィスク）やKABC（ケーABC）といった知能検査、新版K式発達検査などの発達検査、Vineland-II（バイランドII）のような適応行動尺度などがあります。どの検査が行われるかは、お子さまの年齢や状態、相談の目的によって異なります。
発達検査の結果報告書に書かれていること
結果報告書の形式は機関によって多少異なりますが、一般的には以下のような内容が含まれています。
- 受検者情報: お子さまのお名前、生年月日、検査を受けた年月日など。
- 検査概要: どのような検査を行ったか、検査に臨むお子さまの様子（集中度や意欲など）などが記録されていることがあります。
- 結果の概要: 検査全体の知能指数（IQ）や発達指数（DQ）など、総合的な数値が示されます。
- 領域別の詳細結果: 検査項目がいくつかの領域（例えば、言葉の理解、推論する力、記憶力、手先の巧緻性など）に分かれており、それぞれの領域での詳細な数値や評価が示されます。
- 所見・コメント: 検査を実施した心理士や医師による、検査結果から読み取れるお子さまの特性に関する詳細な解説や、検査中の具体的な行動観察などが記載されています。
- 今後の支援の方向性: 検査結果を踏まえ、どのような点に配慮したり、どのような支援が考えられるかについての提言が書かれていることがあります。
結果報告書を読む上で特に注目したいポイント
数値だけを見ると、全体のIQやDQに目が行きがちですが、報告書を見る際には以下の点に注目してみましょう。
全体の数値だけでなく「凸凹」に注目する
IQやDQといった全体的な数値は、あくまで一つの指標です。より大切なのは、領域別の結果にばらつき（凸凹）があるかどうかです。例えば、言葉で聞いて理解する力は高いけれど、目で見て情報を処理する力は苦手、といったように、得意な領域と苦手な領域に大きな差がある場合、それがお子さまの日常生活での困りごとに繋がっている可能性があります。
得意なこと・苦手なことの具体的な内容を見る
領域別の数値や所見を注意深く読むと、「どのような状況で力が発揮しやすいか」「どのような課題でつまずきやすいか」といった、より具体的な情報が見えてきます。例えば、「視覚的な情報（絵や図）があると理解しやすい」「一度にたくさんの指示が出ると混乱しやすい」「新しいことを学ぶのは得意だが、細かい作業は苦手」など、具体的な特性のヒントが隠されています。
所見・コメントを丁寧に読む
所見やコメントには、数値だけでは分からない、検査中のお子さまの様子や、結果から読み取れる専門家からの詳しい解説が書かれています。なぜこの結果になったのか、どのような支援に繋がるのかなど、理解を深めるための重要な情報が含まれています。専門用語が出てきたら、その場で簡単な解説が添えられているか確認したり、分からなければ後で質問するためにメモしておくと良いでしょう。
今後の支援の方向性について確認する
報告書に「今後の支援の方向性」や「提言」が記載されている場合は、必ず目を通しましょう。これは、検査結果を踏まえて専門家が考える、お子さまに必要なサポートや環境調整に関する具体的なアドバイスです。療育機関選びや家庭での関わり方を考える上で、非常に参考になります。
検査結果を診断後の支援にどう活かすか
発達検査の結果報告書は、診断を受けて終わり、ではなく、その後の支援を始めるための大切なスタート地点となります。
お子さまの特性をより深く理解するために
報告書を読み解くことで、お子さまの「なぜこれが難しいのか」「どうすれば力が発揮できるのか」といった、行動の背景にある特性への理解が深まります。これは、お子さまへの声かけやサポート方法を考える上で、大きなヒントになります。例えば、聴覚的な情報処理が苦手な傾向があるなら、口頭での説明だけでなく、視覚的なツール（絵カード、文字、リストなど）を併用すると良いかもしれない、といった具体的な工夫が見えてきます。
支援機関との連携に活用する
療育機関や学校、幼稚園・保育園などに相談したり利用を検討したりする際、検査結果報告書を共有することは非常に有効です。報告書があることで、支援者がお子さまの特性を専門的な視点から素早く把握し、よりお子さまに合った支援計画を立てやすくなります。報告書の内容について、支援者と情報共有の時間を持ち、一緒に理解を深めることも大切です。
家庭での関わり方のヒントにする
検査結果で分かったお子さまの得意・苦手を踏まえて、家庭での関わり方を工夫してみましょう。得意なことはさらに伸ばせるような機会を作ったり、苦手なことに関しては、無理強いするのではなく、スモールステップで取り組めるように工夫したり、サポートの方法を検討したりすることができます。また、お子さま自身も、自分が何が得意で何が苦手なのかを知ることで、自己理解を深めるきっかけになることもあります。
支援計画を立てる上での参考に
自治体の担当者や、療育機関のスタッフと一緒に個別支援計画を立てる際、検査結果は具体的な目標を設定したり、支援内容を検討したりするための重要な情報となります。報告書の内容を説明し、支援計画に反映してもらうように依頼することも可能です。
分からないことは遠慮なく質問しましょう
検査結果報告書を読んでも内容がよく分からない部分や、疑問に思う点があるのは自然なことです。そのような場合は、遠慮なく検査を実施した心理士や診断をした医師、あるいは相談窓口の担当者などに質問してみましょう。専門家は、保護者の方が報告書の内容を理解し、今後の支援に繋げられるように説明する役割も担っています。
まとめ：報告書は「取扱説明書」ではない
発達検査の結果報告書は、お子さまの「取扱説明書」のように、全てを決定づけるものではありません。あくまで、お子さまの現在の状態を理解するための一つの情報源であり、お子さまの全体像や可能性の全てを示しているわけではないことを心に留めておいてください。
報告書の内容に一喜一憂しすぎる必要はありません。大切なのは、そこに書かれている情報をお子さまへの理解を深めるためのヒントとして活用し、これからの支援や家庭での関わり方を考えるきっかけとすることです。
診断を受けたばかりで情報過多になり、戸惑いを感じることもあるかもしれません。しかし、検査結果を理解しようとすることは、お子さまにとって最も良い支援を考えるための、前向きな一歩です。一人で抱え込まず、信頼できる相談先や支援機関と共に、お子さまの成長をサポートしていきましょう。この記事が、その最初の一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。