お子さんの発達診断名について知る:よく聞く名称とそれが示す発達の傾向
お子さんの発達について専門機関を受診され、診断名を聞かれたとき、多くの親御さんは様々な感情を抱かれることと思います。不安や混乱、そして「この診断名は何を意味するのだろう?」という疑問が湧いてくるかもしれません。たくさんの情報があふれる中で、診断名という言葉にとらわれすぎたり、逆にその意味が分からず困惑したりすることもあるのではないでしょうか。
このページでは、お子さんの発達診断でよく聞かれるいくつかの名称について、それが一般的にどのような発達の「傾向」や「特性」を示すとされるのかを、分かりやすくご説明します。診断名を知ることが、お子さんへの理解を深め、今後のより良い関わり方や支援を考えるための一歩となることを願っています。診断名は、お子さんの全てを決めるものではなく、お子さんという唯一無二の存在を理解するための「手がかり」の一つであるという視点でお読みいただければ幸いです。
発達診断名がつけられる意味とは
専門家がお子さんの状態を評価し、診断名をつけるのは、決してそのお子さんにレッテルを貼るためではありません。診断名は、お子さんが持っている発達の特性を整理し、その特性に基づいた適切なサポートや療育(お子さんの発達を支援するための専門的なプログラムや関わり)を検討するための、いわば共通言語や出発点として用いられるものです。
診断名があることで、専門家はお子さんの特性を理解しやすくなり、どのような支援が有効か、どのような環境調整が必要かなどを具体的に考えることができるようになります。また、公的な支援制度の利用を検討する上でも、診断名が必要となる場合があります。
ただし、大切なのは診断名そのものよりも、その診断名によって示されるお子さん個別の具体的な特性や、「得意なこと」「苦手なこと」がどのようなものかを知ることです。一人ひとりのお子さんは、同じ診断名であっても、特性の現れ方や強さが全く異なります。診断名はあくまで傾向を示すものであり、お子さん自身の豊かな個性や可能性の全てを表すものではないことを忘れないでください。
よく聞く代表的な発達診断名と示す傾向
お子さんの発達診断でよく聞かれる代表的な診断名と、それぞれが一般的にどのような発達の傾向を示すことが多いのかを簡単にご説明します。
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自閉スペクトラム症(ASD)
- ASDは、対人関係や社会的なコミュニケーション、そして特定の興味や活動における「こだわり」といった特性が、主に幼少期から見られる発達のタイプです。
- 例えば、「言葉の裏にある気持ちを読み取るのが難しい」「表情や声のトーンから相手の感情を理解しにくい」「場の空気を読むといったことが自然には難しい」「特定の物事やルーティンに強いこだわりを持つ」「感覚(光、音、肌触りなど)について、過敏だったり逆に鈍かったりする」といった傾向が挙げられることがあります。
- 特性の現れ方は本当に多様で、「おしゃべりが得意でもコミュニケーションの取り方に独特のスタイルがある方」「言葉でのコミュニケーションが少ない方」など、一人ひとり大きく異なります。「スペクトラム(連続体)」という言葉が使われるように、これらの特性は濃淡や組み合わせが様々です。
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注意欠如・多動症(ADHD)
- ADHDは、「不注意」「多動性」「衝動性」といった特性が、主に幼少期から見られる発達のタイプです。これらの特性は、組み合わさって現れたり、どれかが特に強く現れたりします。
- 「不注意」の傾向としては、「うっかりミスが多い」「物事を順序立てて行うのが苦手」「注意が逸れやすい」「忘れ物や物をなくしやすい」などが挙げられます。
- 「多動性」の傾向としては、「じっとしているのが苦手で、そわそわしたり、体を動かしたりしていることが多い」「座っていても手足をもじもじさせる」「落ち着いて静かに遊ぶことが難しい」などが挙げられます。
- 「衝動性」の傾向としては、「思いつくとすぐに行動してしまう(順番を待てない、危険なことでもまずやってしまうなど)」「考えずに発言してしまう」「人の話を遮ってしまう」などが挙げられます。
- ADHDの特性も、成長とともに現れ方が変化したり、多動性が目立たなくなる一方で不注意の困難さが続いたりするなど、変化していきます。
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限局性学習症(SLD)
- SLDは、全般的な知的な発達には遅れがないにも関わらず、「読み書き」「計算」「推論する」といった特定の学習能力のうち、いずれかまたは複数に著しい困難がある発達のタイプです。以前は「学習障害(LD)」と呼ばれていました。
- 例えば、「文字の形を認識したり、文字を滑らかに読んだり書いたりするのが極めて難しい(読字障害・書字表出障害)」「数の概念を理解したり、計算のやり方を覚えたりするのが難しい(算数障害)」といった具体的な困難として現れることがあります。
- SLDのお子さんは、他の面では問題なく発達していることが多いため、学習面での困難が見過ごされがちになることもあります。
これらの診断名は、複数同時に見られること(併存)もあります。例えば、ASDとADHDの特性を両方持つお子さんもいらっしゃいます。大切なのは、診断名にとらわれすぎず、お子さん一人ひとりがどのような特性を持ち、何に困っていて、どのようなサポートがあれば生きやすくなるのかを理解しようとすることです。
診断名を知ることが次の一歩につながる
お子さんの診断名を知ることは、不安を覚える一方で、これまでの「どうしてだろう?」という疑問への手がかりを与えてくれることもあります。「もしかして、この行動は診断名にある特性と関連があるのかな?」と考えることで、お子さんの言動の背景にある理由が見えてくることがあります。
理由が分かれば、感情的に叱るのではなく、「なぜそうなるのか」を理解した上で、お子さんに合った声かけを考えたり、環境を整えたり、具体的なスキルを教えたりといった、建設的な関わり方を選びやすくなります。また、診断名があることで、専門機関や学校、園などに相談する際に、お子さんの状態を伝えやすくなり、より具体的な支援について話し合うことが可能になります。
ただし、診断名はあくまで専門的な視点からの分類です。お子さんの全てを語るものではありませんし、成長によって特性の現れ方は変化していきます。診断名にとらわれすぎず、良い面、得意な面も含めて、お子さん自身を丸ごと見ていくことが何よりも大切です。
まとめ:診断名は理解への「はじめの一歩」
お子さんの発達診断名について初めて知るとき、多くの情報に触れて混乱することもあるでしょう。しかし、診断名はお子さんという存在を全て定義するものではなく、お子さんの発達の特性を理解し、より適切な支援へと繋げるための一つの「入り口」であると捉えていただけたらと思います。
今回ご紹介した代表的な診断名も、それぞれが示す特性はあくまで一般的な傾向であり、お子さん一人ひとりの現れ方は異なります。大切なのは、診断名からお子さんの持つ可能性や得意なこと、そしてサポートが必要なことについて、専門家と共に理解を深めていくことです。
焦る必要はありません。診断名を知った今が、お子さんへの理解をさらに深め、これからどのようなサポートがあるのかを知っていくための新しいスタートです。ご家族だけで抱え込まず、専門家や支援機関と共に、お子さんの成長を支えていく道を一歩ずつ進んでいきましょう。