お子さんの発達特性、どう伝える?年齢別のヒントと家庭での関わり方
お子さんの発達特性、どのように伝えますか?
お子さんの発達について診断を受けた後、情報収集や療育機関の検討と並行して、お子さんご本人にこの特性についてどのように伝えれば良いのか、悩む方もいらっしゃるかもしれません。伝えることへのためらいや、「どのように理解してもらえるのだろうか」という不安を感じることもあるでしょう。
この記事では、お子さんに発達特性について伝えることの意義や、年齢ごとの伝え方のヒント、そして家庭でできるサポートについてお伝えします。お子さんがご自身の特性を理解し、前向きな一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。
なぜお子さん自身に特性について伝えることが大切なのでしょうか
お子さん自身がご自身の発達特性について知ることは、多くのメリットがあると考えられています。
- 自己理解が進む: 「どうして自分は他の子と違うんだろう」「なぜこれが苦手なんだろう」といった、お子さん自身の疑問や困惑の理由が分かることで、漠然とした不安が軽減されることがあります。自分の得意なこと、苦手なことを理解することは、自己肯定感を育む上でも重要です。
- 困りごとへの対処法を見つけやすくなる: 特性の理解が進むと、「この場面で困るのは、自分のこういう特性があるからかもしれない」と客観的に考えられるようになります。これにより、困りごとが起きた時に、自分に合った対処法や工夫を見つけやすくなります。
- 周囲との関係性が改善する可能性: 自分の特性を理解し、必要なサポートについて周囲に適切に伝えられるようになると、園や学校、友達との関係性がスムーズになることがあります。
- 将来への準備: 自分の特性を受け入れ、理解することは、将来社会に出ていく上での大切な準備となります。自分の強みや弱みを踏まえ、どのような進路を選び、どのように社会と関わっていくかを考える基盤となります。
もちろん、伝えるタイミングや方法は、お子さんの年齢、理解度、特性の種類や程度によって異なります。無理に一度に全てを伝える必要はありません。お子さんの様子をよく観察しながら、少しずつ、根気強く関わっていくことが大切です。
お子さんへの伝え方の基本的な考え方
お子さんに発達特性について伝える際には、いくつか心がけておきたい点があります。
- ポジティブまたは中立的な言葉を選ぶ: 「病気だから」「ここがダメだから」といった否定的な言葉ではなく、「生まれつきの脳のタイプ」「得意なことと苦手なことがあるのはみんな同じ、そのバランスが少し違うだけ」「君の個性」など、前向きまたは中立的な言葉を選ぶようにしましょう。
- 子どもの年齢や理解度に合わせる: 抽象的な専門用語は避け、お子さんが理解できる具体的な言葉や例え話を使います。難しい話を一度にたくさんしても混乱させてしまうだけです。
- 安心できる環境で、信頼関係のある人が伝える: 親御さんが、お子さんが一番安心できる場所で、穏やかな雰囲気で伝えることが望ましいです。専門家(医師や心理士など)に同席してもらうことも有効な場合があります。
- 「できないこと」だけでなく「得意なこと」「良いところ」も合わせて伝える: 特性について伝える際は、困りごとや苦手な面にだけ焦点を当てるのではなく、お子さんの持っている強みや良いところに必ず触れるようにしましょう。「〇〇は少し難しいかもしれないけれど、△△はすごく得意だよね!」「君のそういうところが素晴らしいと思うよ」といったメッセージを伝えます。
- 子どもからの質問に丁寧に答える: 伝えた後、お子さんから質問が出たり、不安そうな様子が見られたりするかもしれません。お子さんの反応をよく見て、疑問や感情に寄り添い、丁寧に答えることが重要です。
年齢別の伝え方のヒントと具体例
お子さんの発達段階によって、適した伝え方やサポートの方法は異なります。
幼児期(〜小学校入学前)
この時期のお子さんに、難しい概念として特性を伝えるのは困難です。「診断名」や「特性」という言葉を使う必要はありません。日々の具体的な行動を通して、「みんな違う」こと、「得意なことや苦手なことがあるのは自然なこと」であることを伝えていきましょう。
- ヒント:
- 絵本やイラストを使って、色々な人がいること、得意なことや苦手なことが違うことを視覚的に伝える。
- お子さんの具体的な行動に対して、「〇〇するのは難しいけど、△△は上手にできるね!」などと声かけし、得意・苦手があることを言葉にする。
- 「みんな違うから面白いね」「〇〇ちゃんはこれが得意、△△くんはこれが得意、すごいね!」など、多様性を受け入れるメッセージを伝える。
- 具体例:
- 片付けが苦手なお子さんに、「おもちゃを箱に入れるのは難しいね。でも、絵を描くのはとっても上手だね!」と伝える。
- 集団行動が苦手なお子さんに、「一人で遊ぶのが好きだね。集中してブロックを組み立てられるのはすごいよ!」と伝える。
- 「色々な動物がいるように、人もそれぞれ違うところがあるんだよ」と話す。
小学生低学年(1〜3年生)
少しずつ、自分の内面について考え始める時期です。専門用語を使わずに、お子さんの具体的な困りごとと関連付けて説明を試みましょう。
- ヒント:
- 「脳のスイッチが少し違うから、他の人には簡単にできることも、君には少し難しく感じることがあるんだよ」「得意なことと苦手なことがあるのは、みんな同じように持っていることだよ」など、分かりやすい例え話を使う。
- 「困ったときは〇〇先生に聞いてみようね」「リストを見ながらやると忘れにくいよ」など、具体的な困りごとへの対策とセットで伝える。
- 特性に関連する子どもの行動を否定的に捉えず、「〇〇(特性)のせいかな?大丈夫だよ、一緒に考えよう」とサポートする姿勢を見せる。
- 具体例:
- 忘れ物が多いお子さんに、「脳の忘れんぼスイッチが時々入っちゃうのかな?お支度リストを作って、一つずつ確認してみよう!」と伝える。
- 音に敏感なお子さんに、「大きな音はびっくりしちゃうんだね。耳栓を使うと少し楽になるかもしれないよ」と伝える。
- 「先生がお話ししている時に他のことを考えてしまうのは、脳が色々なことに興味を持つタイプだからかもしれないね。聞く時に意識することを練習してみよう」と提案する。
小学生高学年〜中学生
抽象的な思考ができるようになり、自分の特性について深く理解し始める時期です。「なぜそうなるのか」という理由を知りたいという気持ちが強まります。診断名や特性について、本人と話し合う機会を持つのも良いでしょう。
- ヒント:
- 本やインターネット(適切な情報源を選んで)で、同じような特性を持つ人の経験談や、特性に関する分かりやすい解説を一緒に読む。
- 自分の「得意」や「好き」が、特性とどう関連しているのかを一緒に考える。「集中力が高いのは、特定の物事に深く取り組める特性があるからだね!」など。
- 困りごとについて具体的に話し合い、「どうすればその困りごとを乗り越えられるか」を本人と一緒に考える時間を設ける。解決策を一緒に見つけるプロセスが重要です。
- 必要に応じて、医師やカウンセラーなどの専門家にも同席してもらい、本人への説明をお願いすることも検討する。
- 自分の特性を周囲にどう伝えるか(伝えないか)を、本人と一緒に考える。「自分のトリセツ(取扱説明書)」を一緒に作るのも有効です。
- 具体例:
- 友人関係でつまずきやすいお子さんに、「人の気持ちを読み取るのが少し難しいタイプかもしれないね。でも、ルールをきちんと守れるのは君の強みだよ。どんな時に友達との関係がうまくいかないか、一緒に考えてみようか」と話す。
- 特定の科目が極端に苦手なお子さんに、「この分野は理解の仕方が他の人と違うのかもしれないね。得意な分野を伸ばすことも大切だよ。この科目の難しいところ、具体的に教えてくれる?」と問いかける。
- 「自分の特性について、学校の先生に伝えてみても良いかもしれないね。どんなことを伝えたら、学校生活が送りやすくなるか、一緒に考えてみよう」と提案する。
子どもが自分の特性を理解するための家庭でのサポート
お子さん自身が自分の特性を理解し、受け入れていくためには、家庭での日々の関わりが最も重要です。
- 日常会話の中で「得意・苦手」について自然に話す: 親自身が「お母さんは朝起きるのが苦手だけど、お父さんは得意だよ」「これはお母さんが得意なことだよ」などと話すことで、得意・苦手があるのは当たり前だとお子さんが感じられるようにします。
- 困りごとを否定せず、一緒に解決策を考える: お子さんが困っている時、「なんでできないの!」と責めるのではなく、「どうしたのかな?」「何が困っているの?」と寄り添い、特性と関連付けて「〇〇が難しいんだね。じゃあ、こうしてみたらどうかな?」と一緒に解決策を探します。
- 成功体験を積める機会を作る: お子さんの得意なことや興味のあることを見つけ、そこで成功体験を積めるようにサポートします。成功体験は自己肯定感を高め、「自分にもできることがある」という自信につながります。
- 「みんな違う」ことを伝える: テレビ番組や絵本などを通して、人には様々な個性や違いがあることを自然に伝えます。「みんな違って、みんないい」というメッセージを繰り返し伝えましょう。
- 相談しやすい関係性を築く: お子さんが困ったことや不安なことを、いつでも親に話せるような信頼関係を日頃から築いておくことが大切です。「困った時は、いつでもお父さんやお母さんに話して良いんだよ」というメッセージを伝え続けます。
- ネガティブな言葉の聞き流し: お子さんが自分の特性について否定的な言葉(「どうせできない」「自分はダメだ」など)を口にしたとき、それを真に受けて否定するのではなく、「そう感じる時もあるよね」と共感しつつ、「でも〇〇はすごいと思うよ」など、ポジティブな面にも触れるようにします。
- 親も学び続ける姿勢を見せる: 親御さん自身が、お子さんの特性について学び続け、理解を深めようとする姿勢は、お子さんにとって大きな安心材料となります。
まとめ:焦らず、お子さんのペースで
お子さんに発達特性について伝えることは、簡単なことではありません。一度伝えたからといって、すぐにお子さんが全てを理解し、受け入れられるわけでもありません。お子さんの成長とともに、伝え方やサポートの方法も変化させていく必要があります。
大切なのは、焦らず、お子さんのペースに合わせて進めることです。そして、お子さんの「困りごと」だけでなく、「良いところ」や「強み」に常に目を向け、それを言葉にして伝えることです。
お子さんがご自身の特性を理解し、それを活かして自分らしく生きていくためには、親御さんの温かい見守りと、根気強いサポートが不可欠です。一人で抱え込まず、専門家や支援機関、同じ経験を持つ他の家族など、様々なサポートを活用しながら進んでいきましょう。この一歩が、お子さんの自己理解と成長につながることを願っています。