お子さんの成長記録を支援につなげる:療育・専門家への伝え方と活用法
お子さんの発達診断を受けたばかりで、何から始めれば良いか分からず、混乱しているかもしれません。多くの情報に触れる中で、「家庭での観察や記録が大切」という言葉を見聞きし、「何を、どう記録すれば良いのだろう」「せっかく記録しても、どう活用すれば良いのだろう」と疑問を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、家庭でのお子さんの記録がなぜ大切なのか、どのようなことを記録すると良いのか、そしてその記録を療育や専門家の方々にどのように伝えたら、お子さんへの支援がより効果的になるのかについて、分かりやすくご説明します。家庭での記録を、お子さんの健やかな成長を支えるための大切な一歩として、一緒に考えていきましょう。
なぜ家庭での記録が支援に役立つのか
専門家がお子さんと関わる時間は、限られています。診察や面談、療育の時間だけでは、お子さんの日常の様々な側面や、特定の状況での反応、ご家庭でのリラックスした様子などをすべて把握することは難しいのが実情です。
そこで重要になるのが、保護者の方々が日々感じ、観察しているお子さんの様子です。ご家庭での記録は、専門家が知りえないお子さんの「普段の姿」や「特定の困りごとが起きやすい状況」、「小さな成長」など、多岐にわたる貴重な情報を提供します。これらの情報があることで、専門家はお子さんの発達特性をより深く理解し、より具体的で、お子さんに合った支援計画を立てたり、アドバイスをしたりすることが可能になります。
また、記録は保護者の方がお子さんの様子を客観的に捉え、気づきを得るきっかけにもなります。漠然とした不安や困りごとも、記録してみることで「こういう時にこの行動が起きやすいんだな」「この声かけは効果があるようだ」といった具体的な理解につながることがあります。
どんなことを記録すると良いか
「記録」というと難しく感じるかもしれませんが、特別なことでなくても大丈夫です。お子さんの日々の様子で気になったこと、嬉しかったこと、困ったことなどを、客観的にメモするくらいの気持ちで始めてみましょう。具体的には、以下のような内容が役立ちます。
- 具体的な行動とその時の状況:
- いつ(日付、時間)、どこで、誰といる時に、どんな行動があったか
- その行動の前後で何があったか(例:場所の移動を嫌がったのは、遊びに集中していたから)
- その行動の頻度や強さはどのくらいか(例:1日に〇回、大声で泣く、軽く首を振るなど)
- お子さんの様子や感情:
- 表情や体の動き、声のトーンなど、言葉以外のサイン
- 楽しそう、嫌そう、落ち着かない、不安そうなど、お子さんの感情の推測
- 保護者や周囲の対応:
- その行動に対して、どのように声かけしたり、対応したりしたか
- その対応でお子さんの行動や様子に変化があったか
- うまくいったこと、成長したこと:
- 初めてできたこと(着替え、歯磨きなど)
- スムーズにできたこと(以前は苦手だった場面など)
- 楽しんでいた遊びや活動
- 特定の声かけや工夫でうまくいった経験
- 健康状態:
- 睡眠時間、食事の量、体調(熱、鼻水など)
これらの記録は、箇条書きでも短文でも構いません。専門家が状況をイメージしやすいように、「〇〇しようねと言ったら、床に座り込んで動きませんでした」「△△と声かけたら、自分で靴下を履こうとしました」のように、具体的な行動や言葉を含めて書くことが大切です。
記録をどう整理するか
記録方法は、ご自身が続けやすいものを選ぶことが一番です。
- ノートや手帳: 手軽に書き込めるのがメリットです。日付を書いて、気になったことをメモするだけでも十分です。
- スマートフォンのメモ機能やアプリ: いつでもどこでも記録しやすいのがメリットです。お子さん向けの発達記録アプリなども市販されています。
- パソコンのExcelやWord: 長期的な視点で整理したり、特定の項目でまとめたりするのに便利です。
- 写真や動画: 特定の行動や様子を視覚的に記録するのに非常に有効です。ただし、個人情報を含むため、取り扱いには十分注意が必要です。
後で見返したり、専門家に伝えたりすることを考えて、日付順に整理したり、「食事」「着替え」「コミュニケーション」などの項目別に分けたりすると、より分かりやすくなります。完璧を目指さず、無理なく続けられる方法を選びましょう。
療育・支援機関への効果的な伝え方
記録した内容を専門家に伝える際には、いくつか工夫できる点があります。
- 伝えるタイミング: 面談や診察の機会があれば、事前に記録を見返しておき、特に伝えたいことをまとめておきましょう。連絡帳があれば、日々の簡単な様子を具体的に伝えるツールとして活用できます。見学や体験の前に、お子さんの普段の様子や特に気になる点を整理して伝えておくことも、当日の関わりに役立ちます。
- 伝える内容の選び方: すべての記録を羅列する必要はありません。最も頻繁に起きる困りごと、特に安全面に関わること、支援の目標として取り組みたいこと、最近できるようになったことなど、ポイントを絞って伝えましょう。
- 具体的なエピソードで伝える: 「よく泣きます」だけでなく、「朝、着替えを促すと、床に伏せて30分ほど泣き続けることが週に3回ほどあります」のように、具体的な状況、行動、頻度を含めて伝えると、専門家はお子さんの様子をより正確に把握できます。写真や短い動画も、許可を得て共有することで、言葉だけでは伝わりにくい様子を伝えられます。
- 「困りごと」だけでなく「得意なこと」「うまくいったこと」も伝える: 記録には、ネガティブな側面だけでなく、お子さんの強みや、家庭での工夫でうまくいった経験なども含めましょう。これは、お子さんの良い面を専門家と共有し、肯定的な視点で支援を考える上で非常に重要です。また、うまくいった関わり方を共有することで、専門家からのアドバイスや療育でのアプローチにもつながることがあります。
- 質問や相談したいことを明確にする: 記録を伝えるだけでなく、「この行動の背景にはどんな理由が考えられますか」「家庭ではどのように対応するのが良いですか」のように、具体的に知りたいことや相談したい点を伝えましょう。
専門家は、保護者からの情報を手がかりに、お子さんのアセスメントを行い、支援計画を立てます。正直に、具体的に伝えることが、お子さんにとって最適な支援につながります。
記録を支援にどう活かすか
家庭での記録と専門家への共有は、様々な形で支援に活かされます。
- 支援計画の立案: 記録されたお子さんの具体的な様子や困りごとは、支援の目標設定や内容を決める上で最も重要な情報源の一つとなります。お子さんの実態に即した、効果的な計画作成に不可欠です。
- 支援の質の向上: 専門家は記録された情報をもとに、療育や支援の方法を調整したり、家庭での関わり方について具体的なアドバイスをしたりすることができます。
- 変化や成長の把握: 定期的に記録を見返すことで、以前は苦手だったことが少しずつできるようになったり、特定の関わり方で良い変化が見られたりすることに気づけます。これは、保護者の方自身の励みにもなりますし、専門家と成果を共有し、次の目標を考える上でも役立ちます。
- 関係機関との連携: 幼稚園や保育園、学校など、お子さんに関わる他の機関に情報を引き継ぐ際にも、具体的な記録は役立ちます。一貫した理解と支援につながります。
まとめ:記録はお子さんの「今」を知り、未来を拓く鍵
お子さんの発達診断を受け、多くの情報に触れ、混乱する中で、日々の記録に取り組むことは負担に感じるかもしれません。しかし、家庭での何気ない記録一つ一つが、お子さんの発達特性を理解し、適切な支援を選択・調整し、そして何よりもお子さんの小さな成長に気づくための大切な手がかりとなります。
完璧な記録を目指す必要はありません。まずは「これだけは」と思うことから始めてみましょう。そして、その記録を療育や専門家の方々に正直に伝えてみてください。家庭での観察と記録、そして専門家との情報共有は、お子さんの支援をより豊かにし、お子さんが本来持っている力を伸ばしていくための、確かな一歩となるはずです。
一人で抱え込まず、支援機関の方々も大切なチームの一員だと考えて、積極的に情報を共有し、連携を深めていきましょう。その努力は、必ずお子さんの未来を拓く力となります。