発達診断で分かるお子さんの特性:日常生活の現れ方と家庭での関わり方
はじめに:診断結果を、お子さん理解への第一歩に
お子さんの発達について専門機関を受診し、診断結果を受け取られた後、様々な情報に触れていらっしゃるかもしれません。診断名や検査の結果について、たくさんの情報があり、何から考え始めれば良いか、戸惑うこともあるかと存じます。
この診断は、お子さんの発達に特性があることを示しています。これは、お子さんの脳機能に生まれつきの偏りがあることによる、個性や傾向のようなものです。決して、お子さんが悪いわけでも、親御さんの育て方が間違っていたわけでもありません。診断は、お子さんがこれから成長していく上で、どのような点にサポートが必要か、どのような関わり方が有効かを知るための、大切な羅針盤となるものです。
この記事では、発達診断で示されるお子さんの「特性」が、実際の日常生活の中でどのように現れるのか、そしてその特性を理解した上で、ご家庭ではどのように関わっていくことができるのかについて、分かりやすくお伝えします。お子さんへの理解を深め、これからの一歩を踏み出すための安心材料としていただければ幸いです。
発達の「特性」とは?病気ではなく、その子らしさの現れ
発達診断で示される「特性」とは、例えばASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)といった診断名のことだけを指すのではありません。診断名の背景にある、お子さん一人ひとりの、物事の捉え方、感じ方、考え方、行動の仕方の「傾向」のことです。
発達に特性があるお子さんは、多くの場合、発達に「凸凹(でこぼこ)」があると言われます。これは、知的な発達や特定のスキル(コミュニケーション、運動、社会性など)の発達に、個人差や偏りがある状態を指します。「できること」と「苦手なこと」の差が大きいこともあります。
この「特性」は、決して病気のように治る・治らないという性質のものではなく、その子の生まれ持った気質や個性のようなものです。この特性を理解することは、お子さんの「苦手」の背景にある理由を知り、「得意」や興味のあることを見つけ、伸ばしていくことにつながります。
日常生活での「特性」の現れ方:具体的な例
お子さんの発達特性は、ご家庭での日々の生活の中で、様々な形で現れます。診断を受けたお子さんによく見られる特性と、それが日常生活でどのように現れるかの具体的な例をいくつかご紹介します。
コミュニケーションの特性
- 言葉の受け止め方: 言葉をそのまま文字通りに理解しがちで、皮肉や比喩が分かりにくいことがあります。また、一度にたくさんのことを言われたり、抽象的な指示だったりすると理解が難しくなります。
- 現れ方例: 「ちょっと待っててね」と言われても時間の感覚が分からずずっと待ち続けてしまう。「ちゃんとしなさい」という指示が何を指すのか理解できない。
- 気持ちや意図の理解: 相手の表情や声のトーンといった非言語コミュニケーション(言葉以外の手段でのやり取り)から、気持ちや状況を読み取ることが難しい場合があります。
- 現れ方例: 相手が怒っていることに気づかない。場の空気が読めないと言われることがある。
- 言葉での表現: 自分の要求や気持ちを言葉でうまく伝えられないことがあります。話し方が一方的になったり、相手との会話のキャッチボールが難しかったりすることもあります。
- 現れ方例: 「お腹が空いた」と言えず、イライラして癇癪を起こす。自分の好きなことについて一方的に話し続ける。
社会性の特性
- 対人関係: 人との関わり方で、適切な距離感が分からなかったり、集団での暗黙のルールが理解しにくかったりすることがあります。
- 現れ方例: 初めて会った人にも馴れ馴れしく接してしまう。友達との適切な遊び方が分からない。
- 共感性: 相手の気持ちを想像したり、相手の立場に立って考えたりすることが難しい場合があります。
- 現れ方例: 友達が悲しんでいても気づかない、またはどのように慰めれば良いか分からない。
- 融通の利きにくさ: 自分のやり方や考え方にこだわり、予定外の変更や臨機応変な対応が苦手なことがあります。
- 現れ方例: 遊びのルールが変わると受け入れられない。急な予定変更で混乱する。
感覚の特性(感覚過敏・鈍麻)
- 特定の刺激への反応: 特定の音、光、匂い、味、手触りなどに非常に敏感で、強く嫌がることがあります(感覚過敏)。逆に、痛みや温度を感じにくい、特定の刺激を強く求める(感覚鈍麻)こともあります。
- 現れ方例: 大きな音や特定の音が苦手で耳をふさぐ。特定の素材の服が着られない。暑い寒いを訴えない。じっとしていられず常に体を動かしたがる。
- 体の使い方: 自分の体の位置や動かし方(固有受容覚)、バランス感覚(前庭覚)を掴むのが苦手なことがあります。
- 現れ方例: よく転ぶ、つまずく。力の加減が難しい(物を強く握りすぎる、弱すぎる)。姿勢を保つのが苦手。
こだわりの特性
- 限定された興味や反復行動: 特定の物事への非常に強い興味を持ち、それに没頭したり、同じ行動を繰り返したりすることがあります。
- 現れ方例: 特定のおもちゃやキャラクターに強い執着を見せる。ミニカーを延々と並べる。
- 変化への抵抗: 予測できない変化や、普段のルーティン(決まった手順や流れ)が崩れることを非常に嫌がることがあります。
- 現れ方例: 毎日同じ服を着たがる。いつも通る道順が変わるとパニックになる。
注意・集中の特性
- 不注意: 集中力が持続しにくい、忘れ物や失くし物が多い、指示を聞き漏らす、気が散りやすいといった傾向があります。
- 現れ方例: 遊びに集中できず、次々と違う遊びに移る。言われたことをすぐ忘れてしまう。
- 多動性・衝動性: じっとしているのが苦手で常に体を動かしている、思いついたらすぐ行動してしまう、順番を待てないといった傾向があります。
- 現れ方例: 食事中や椅子に座っている時も体が動いている。欲しいものがあると我慢できずに手が出る。
これらの特性は、お子さんによって現れ方が異なりますし、複数の特性が組み合わさっていることもあります。また、年齢や環境によって現れ方が変化していくこともあります。
特性を理解した上での家庭での関わり方
お子さんの発達特性を理解することは、日常生活での「困った行動」の背景にある理由を知ることにつながります。そして、その理解に基づいた関わり方や環境の調整は、お子さんの日々の困りごとを減らし、お子さん自身が安心して過ごせるようになるために非常に有効です。
1.お子さんを「観察」する視点を持つ
診断名や一般的な特性について知ることも大切ですが、最も大切なのは「目の前のお子さんが、具体的にどんな状況で困っているのか」「どんな時に落ち着いていられるのか」「何に興味を持って、どんな時に楽しいと感じているのか」を、注意深く観察することです。
- 具体的な行動に注目: 「落ち着きがない」と捉えるのではなく、「体を動かしていないと辛そう」「特定の音に反応してソワソワする」のように、具体的な行動やその時の状況を観察します。
- 「なぜ?」を考える: その行動の背景には、どんな特性が関係しているのだろう?と想像してみます。感覚が過敏で特定の場所を嫌がっているのかもしれない。指示が理解できず困っているのかもしれない。
- ポジティブな面にも注目: 苦手なことだけでなく、何に夢中になっているか、どんな時に笑顔になるかなど、「得意」や「好き」なこと、強みにも目を向け、記録してみましょう。
この観察は、後々、療育機関や専門家と情報共有する際にも非常に役立ちます。
2.特性に合わせた「環境」を整える
お子さんの特性に合わせて、物理的な環境や情報の伝え方を調整することを「環境調整」と言います。
- 視覚的なサポート: 言葉だけでなく、絵カード、文字、写真、タイマーなど、目で見える形で情報を提示すると分かりやすい場合があります。一日のスケジュールを絵や写真で見せる、やるべきことをリストにする、終わり時間をタイマーで示すなどです。
- 構造化: 活動の場所や時間を区切ることで、お子さんが「いつ、どこで、何をすれば良いか」を見通しやすくします。おもちゃを種類別に片付ける場所を決める、学習する場所と遊ぶ場所を分けるなどです。
- 感覚への配慮: 苦手な感覚刺激(騒音、強い光、特定の素材など)を避ける工夫をします。逆に、落ち着く特定の刺激(特定の触り心地のブランケット、適度な重さ、音楽など)を取り入れることも有効です。
3.特性に合わせた「コミュニケーション」を工夫する
- 分かりやすい言葉で: 短く、具体的で肯定的な言葉で伝えましょう。「走らない!」ではなく「歩こうね」、「あれ取って」ではなく「棚の上にある赤い本を取ってね」のように、具体的にどうしてほしいかを伝えます。
- 一方的な指示は避ける: 話しかける時は、お子さんの目を見て、名前を呼んでから伝えると、注意を引きやすくなります。一度に複数の指示を出すのは避けましょう。
- 子どもの気持ちを汲み取る: 言葉でうまく伝えられないお子さんの場合、行動を通して何かを訴えていることがあります。行動の背景にある「困り感」や「要求」を想像し、代弁したり、一緒に考えたりすることが大切です。
- できたことを具体的に褒める: 「偉いね」だけでなく、「〇〇(具体的な行動)ができてすごいね!」のように、何が良かったのかを具体的に伝えることで、お子さんは自分の良い行動を認識しやすくなります。
4.「得意」や「好き」を伸ばす
お子さんの特性は、「苦手」なことだけではなく、「得意」や「強い興味」として現れることもあります。特定の分野への集中力、驚異的な記憶力、独特の視点など、ポジティブな側面にも目を向け、それを伸ばしていくことは、お子さんの自己肯定感を育む上で非常に重要ですす。
- 興味のあることを深める機会を作る: 図鑑を見る時間を設ける、関連する場所に出かけるなど、お子さんの「好き」を一緒に楽しむ時間を作りましょう。
- 成功体験を積ませる: 少し頑張ればできる、小さくても成功を実感できるような目標を設定し、達成感を味わわせてあげましょう。
5.完璧を目指さず、サポートを求める
特性理解に基づいた関わり方は、すぐに全てがうまくいくものではありません。試行錯誤しながら、お子さんに合う方法を見つけていく過程です。親御さん一人で抱え込まず、支援機関の専門家(児童発達支援事業所の職員、心理士、言語聴覚士など)や、同じ経験を持つ他の保護者(保護者会や交流会など)とつながり、相談したり、情報交換をしたりすることも大切です。
まとめ:お子さんの「今」を理解し、未来への一歩を踏み出す
発達診断は、お子さんの発達特性を知るための大切な機会です。診断結果が示す情報は、お子さんの「得意・苦手」がなぜ生じるのか、日常生活でどのような困りごとが現れやすいのかを理解するための手助けとなります。
この理解を深めることで、ご家庭でできる具体的な関わり方や環境の工夫が見えてきます。焦る必要はありません。お子さんの「今」を丁寧に見つめ、特性に寄り添った関わり方を一つずつ取り入れていくことが、お子さんの日々の安心につながり、成長を促す力になります。
そして、ご家庭での関わりと並行して、専門機関による療育や支援を検討することも、お子さんの発達をサポートするための有効な手段です。お子さんの特性理解に基づいた関わりは、まさに療育の考え方そのものです。
診断という一歩を踏み出された今、どうかご自身を責めず、お子さんの可能性を信じて、お子さんと一緒に、そして利用できる様々なサポートを活用しながら、次の一歩を進んでいってください。この情報が、その一助となれば幸いです。